最終更新日:2020/6/6
ここでいうテイスティングは、「ボトル情報を全部、または一部開示されていない状態で、香りをかぐ、実際に飲用することで特定する技術」のことをさします。「味わって飲む」こととは全く異なりますし、たいていの場合楽しくないです(主観です)。テイスティングというよりはブラインドテイスティングですね。
しかし、ワインや日本酒でもテイスティング、唎酒はありますし、実際に自分も何回かはブラインドテイスティングをしたことがあるので、一般的な話として書こうと思いました。今あげたワイン、日本酒についても、ウイスキーについても、テイスティング、という言葉はありますし、人によってはやってみたりしたこともあるかと思います。また、実物のウイスキーにもテイスティングノートが付いていることは多いですが、その通りの味わいに感じるかというとそうでもないと個人的には感じております。
個人として、テイスティングということを意識するのはブラインドテイスティングをしたとき程度ですが、メーカや、ブロガーの宣伝・評価に惑わされないように技術としては知っていた方がいいように思いますので、過去の経験に基づき、何回かに分けて話を書いていこうかと思います。取りあえず、今日のところは今自分が使っているテイスティングノートをシェアします。
参考までに試飲会などに参加したときに(極力)つけるようにしているメモ帳のPDFを公開します。これ自体完成されたものではないので、あまり参考にはならないかもしれませんが… デジタルペーパのテンプレートとして使用することを前提に作っていて、自分でも使用しています。自分以外でデジタルペーパを使用している人に出会ったことがありませんが、参考にしていただければ幸いです。今のところCopyrightすら入れていませんが、今後は入れるかも。
ただし、これを作成した過程は役に立つと思うので参考として載せておきます。
ボトルの情報:後で何のボトルか特定できる手掛かりになる項目を挙げた。例えばCask Numberは必須の項目とは思っていないが、たまに、同じボトラーでボトリングが1か月ずれているだけで、しかも度数が同じなど(特にOMC)があるため。
ScoreはScoring Policyに従ってつけている、つもりだが、書き込むときには通常酔っぱらっているので正確性に欠ける。ただし、あとから確認してもそんなにずれていることはないので不思議。
Nose, Mouth, Finishは一般的なものKeywordは、酔っぱらっていると大抵思い出せないので記憶の補助のために書いている。自分の表現にあるフレーバーがベースで、そこによそで聞いたことのあるものなどを加えていく(Revision Upで更新されるかも)。
Otherはボトルに関する追加情報など、例外的なことを記入する。
Recommended styleはお薦めの飲み方。次のRevisionでは典型的な飲み方を記入しておきます。
今のところ何とかフィニッシュ的なアレは項目として入れていません。表記がよくわからない場合もあるので…
まず、基本的なポイントですが、何杯(ブラインドで)飲むか(飲めるか)は分かっておいた方がいいでしょう。杯数が多く、時間も長いケースで、大人げなく、本気で当てに行く場合は、基本的には飲まない方がいいです。ノージングで当てに行くべきです。酔っぱらうとどうしても考えは鈍りますし、テイスティングしたアイテムによっては味が口に残って、他のを飲んでも結局分からないなんてことは多いです。特に、順番に1,2杯ずつ出てきて、2時間とかかかるようなイベントであれば、飲んでしまうと後半はどうしてもアルコールが効いてきます。ノージングで分かって、自信がある場合は飲まないべきです(もったいないですけど)。たいていの場合は飲むと余計分からなくなります。
ただし、5杯とかまとめて出てきて、選択式で選ぶ、とかであれば比較が重要なので、飲むのはありです。ただし、その場合でも出来るだけ飲まないでノージングで見当をつけた方がいいです。その後で飲んでノージングが外れているように感じたら味で判定するという手もあるので。
これも基本的にはやめた方がいいです。これができるのは、蒸留所オフィシャルのボトルの時くらいです。よく、「ハウススタイル」とか言いますが、お酒自体にそれがあるかというとかなり怪しいと思います。広く知れ渡っているスタンダードなボトルの味はブレンダーが作っているものなので、シングルカスクには当てはまらないと思います。蒸留所オフィシャルなものであれば、スプリングバンク(独特の塩っぽさがある)、グレンフィディック(洋梨のような華やかな香りがする)は結構分かりやすく感じられると思います。あと、これは味といっていいのか分かりませんが、個人的にはボウモアはクラウディな感じがします。スモークがあって、ラフロイグのようなヨード感がなく、カリラのような草っぽさもない、とここまでは結構ビートタイプのウイスキーにありがちですが、ボウモアはスモークの味を確かに感じるにもかかわらず、「ぼんやり」とも感じるのです。普段、ボウモア自体そんなに飲まないのですが、比較的当てやすいと感じます。
ただし、なんでか分かりませんが、苦手な香味はよく覚えているもので、蒸留所特有の香味があって(これも本当にあるのかは疑わしいが、共通の認識として特有の味がある場合、販売する側もそこに合わせているように思います)、かつ苦手な場合は結構当たります。個人的な例を挙げると、
リトルミル(湿った段ボールとかよく言われる)
オスロスク(セメダイン(透明な接着剤)っぽい苦味。他のお酒で例えると甲類の焼酎(大五郎とか))
インチガワー(スミレのニュアンス。毒っぽい)
カリラ12年(独特の草っぽさ)
80年代のボウモア(特に1982)の石鹸臭さ。
あたりでしょうか。インチガワーは蒸留所オフィシャルを見かけないのですが、不思議とこの香味を持つものが多いです。リトルミルはシングルカスクでは意外とこの味に当たらない(と言っても50%くらいはこのニュアンスは感じる)のですが、蒸留所オフィシャルのボトルはほぼ必ず段ボール。逆に考えると、段ボールが蒸留所のカラーだと考えていて、わざわざその味を作っていた、ということになるのではないかと思います。
得意なものなら当てられるはず、とも思いますし、そういう方もいらっしゃるとは思いますが、筆者は当てられません。過去にはブラインドテイスティング前日に飲んでいたラフロイグ10年が当日当てられなかったり、ある日ブラインドで当てられたグレンモーレンジ10年が1週間後には全然わからなかった、などはざらにあります。
ちなみに、苦手ではないし、普段そんなに飲むわけではないのですが、90年代以降のボウモアはなんとなく分かります。たまにシグナトリーのアンチルフィルタードコレクションでVery Cloudyとか書いてあるのがあるのですが、ああいう、もやっとしたニュアンスがあって、結構わかることが多いです。
中々例を挙げるのが難しいですが、他の要素を考えることも大事です。喉や、胃に来る感覚も意外とテイスティングを助けてくれます(それをテイスティングと呼んでいいのかは微妙ですが)。例えば、筆者はマッカランを飲むと、12年であってもボトラーであっても、オフィシャルの長熟であっても喉を焼く感覚があります。
後、これは味に関連しますが、加水で出会ったことがない味のものだとクライヌリッシュとか(これもあくまで個人の経験です)、そんなあやふやなものもあります。ただ、これは普段自分が飲んでいるものの経験からくるもので、意外と当たります。
あと、バーで遊びでブラインドする場合などは、バーテンダーが何を出そうとしてくるとか、この店のボトルラインナップはこの辺とか、こんな高いもの(安いもの)は出さないだろう、みたいな邪推はまあ、外れます。もちろん、そういう駆け引きに強い方なら当てられると思います。
これは意外とありな気もしますが、銘柄当てと同じで、ハウススタイルと違うものが出てくるとさっぱり分かりません。これも、ピートのあるなし、スペイサイド的かどうか、ハイランド的な麦感があるか、アイランドやプルトニーに多い塩の感じがあるか、キャンベルタウン的な潮っぽさがあるか、ローランド的な軽さがあるか、程度で、たまたま絞りこめたとしても、たぶんたまたまです。ある日、バーでこの方法で絞り込んで分かったグレンモーレンジ10年が翌日の別のイベントで全く分からなかったとか、結構普通にあります。
これ自体はテイスティングでも何でもないですが、自分でブレンドしてみる、というのは結構ありです。わざわざ自分からやることはないのですが、蒸留所のコースやイベントでブレンドしてみる機会があったら是非いろいろと試すべきだと思います。これによって、どういうものをどれくらい混ぜるとどういう味になるか、ということが分かってきます。特に、自分の思い込みと実際味のギャップが分かるので、テイスティングの精度は上がるのではないかと思います。特に、ストレートで飲んで、さほどおいしく感じなかったものがブレンドしたときに強調されたり、ストレートで飲んで特徴的な味がしたものを混ぜてみると他のものに勝ってしまって全然まとまりのない味になったり、ピートが強くて飲めない!と思ったものが混ぜてみるといい味出していたりと、いろいろ勉強になると思います。以前は富士山麓のブレンドキットなど、市販品でも混ぜる前提のものはありました。ニッカウヰスキーの宮城峡蒸留所ではマイブレンドセミナーなどでも自分のブレンドを試してみる機会があったりします。ニッカ・ブレンダーズバーでは、ブレンダーおすすめのブレンドを提供していたりしました(今もやっているかは確認していません)。
これは特に否定も肯定もしません。基本的には余韻やその手前のテイストが強く感じられるようになる傾向が強いです。当然のことながら、普段加水していないとどんな感じに感じられるか分かりようもないので、普段から試してみるといいと思います。
これは、そもそも人により味覚・経験・表現が異なるので、具体的にどう、と言えないのですが、バーボン樽だとこういう傾向、シェリー樽だとこういう傾向、カスクだとこういう香味が強い(シングルモルトだとこういう傾向が弱い・強い)、
バーテンダーの方は自然にやっていることだと思われますが、「○○さんはこういう傾向が好き(嫌い)」みたいな傾向があって、「これが好きなら多分これが好き」みたいなものはあります。そういう場合にはやっぱり好きな味・香りが中心にあって、そこから推測しているのだと思います。この判断をどうやってしているのか、考察することは意外と役に立ちます。また、人によって、感じ方、判断のポイントが違うので、そういった点を考えることも役に立ちます。
また、やはり、個々人で味覚の鋭敏なところは違ったりして、ウイスキーが好きで、アイラなんかはたまらなく好き、という人は、どの銘柄のシングルモルトでもまあまあ受け入れられるのに対して、普段そんなに飲まない人はラフロイグはOKだけどアードベッグは無理、とか結構あって、その差はいったいどこにあるのか?みたいなことを考えてみると普段自分が気づかないポイントに気づいたりする、かもしれません。
逆に、自分に当たり前なことも人から見た場合に当たり前でなかったりもします。例えば、あるブラインドテイスティングで、ブレンデッドかシングルモルトか判定するという設問がありましたが、回答の「シングルモルト」に対して、大半の人が「ブレンデッド」という回答でした。私は銘柄まで確信していて、実際当たったので、割と衝撃的でした。ここで大事なのは、ブレンデッド、モルトくらいのざっくりな区分けでも自分が判断しているポイントと他人が判断しているポイントは違う(つまり学習するべきポイントはたくさんある)ということです。
ただ、すごい古いブレンデッドで全然モルトと変わらない、みたいな物を飲んでいた方が、そこまで視野に入れていて予想を外したとかも全然あり得る話で、経験が足を引っ張ることもあるわけで、なかなか難しいところです。